世界が果てるまで愛してよ
 


 いつまで偽りの姿でいれば気が済むの?
「君の瞳はまるで夜空に輝く星のようだ」
 テレビドラマから漏れるありきたりで気障な台詞。ありえない。現実にそんなことをいってくれる王子様なんて、何年たっても迎えになんて来てくれない。来るわけがないじゃない。せいぜい現実にドラマティックを求めて老けて冷たい地面に静かに朽ちてしまえばいいんだ。現実から逃げているだけのあなたが消えたって皆はなにも思わないでしょう。変わらずに世界は回るの。それじゃああんまりだって泣くんでしょう。いいのよ。その涙でさえもう誰にも見えなくて泣きじゃくる声も届かない。絶望。そうよ。絶望だわ。そのくりかえし、誰かに気付いてほしくて泣いているのに誰にも気づいてもらえなくてその渦に陥って。そしてまた泣くのでしょう。誰にも気づいてもらえないなんてひどい。わたしってなんて不幸なんでしょうって。あなたはやっと気づくのね、孤独であることに。

 そうやって被害者ぶるのはやめてくれよ。
「その瞳をよく見せて」
 甘い誘いに乗ってはいけないよ。苦しまぎれの負け惜しみに本気になってはいけない。一時の感情に流されて自分を見失わないで。ぼくのことを信用できないのはわかるよ。月の水で洗って星をまぶし、太陽の光で乾かしたような綺麗な言葉ばかりだから、耳慣れしない言葉ばかりだから、夢のような言葉ばかりだから、君はそっぽを向いてしまうんだよね。でも、ぼくが君のために手に入れたものばかりをまた君に返しているんだよ。いわば幸せの恩返しなのさ。君はその自覚がないからそう思っているだけかもしれないけど、ぼくは君のことがまだ好きだよ。ぼくは弱いと思われてもいいから、ぼくのために生きてください。

 泣いてあげればいいんでしょう。
「離して。あなたといるとわたしまで変になりそうよ」
 幻覚でも見ているのかしら、わたし。まるであなたが目の前にいて、両手を広げて微笑んでいるように見えるの。ねえ、もう一度愛してるって云ってよ。可愛いねって頭をなでて。冷たい指を包んで。空っぽの心を満たしてよ。溜息ばかりが漏れる唇にそっとキスして抱きしめてよ。ねえ、そんなふうにいなくなるのなら永遠なんて云わなければよかったじゃない。嘘だと云ってくれればそれですんだのに。真面目な顔してあんなことよく云えたものね。涙? 違うわよ。そんな素敵なものはわたしのなかにないの。いいの。ただ目にごみが入っただけ。気にしないで。放っておいてよ。どこかへ行ってよ……行かないでって云えないの。わかってよ。
 
 世界が終わっても愛してくれるって云ったのにどうしてきみはぼくのとなりにいないんだろう。

 


親愛なるゆりさきさんへ         お誕生日のお祝いに。 あなたのともだち、紅瀬奏子より

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