前略 お元気ですか。
先日、我が家で遅咲きのマリーゴールドが開花しました。きみは見たことがないといけないから、もしかしたら余計なお世話になってしまうかもしれないけどこの花のことを少し書き添えておこうと思います。
マリーゴールドはキク科のきいろく小振りな花で、原産地はメキシコ。夏の代名詞であるひまわりが「太陽の花」と呼ばれる前、その称号を手に咲き誇っていたのはこのマリーゴールドでした。太陽がのぼると同時に花開き、沈むとともに花が閉じる、そんな直向きさからその名がついたんだって。かの有名なキュリー夫人の誕生花でもあったそうで、花言葉は「別れの悲しみ」、夫を不慮の事故で亡くした彼女には哀れなほどにぴったりの花だと思わない?
我が家のマリーゴールドは、特別に家族の誰かが買ってきたわけでもなければご近所さんからもらったわけでもなく、不思議なようだけど、まるでどこかから湧いてでたように玄関先の鉢に植わっていました。きみがいた年の春には赤いチューリップの住みかとなっていたあの茶色い鉢だよ。唯一縁の欠けていないものだから、我が家でいちばんの花が必ず陣取って、にこやかにお客さんを迎えていた、あの鉢。
姉貴の受験を契機に、毎日を時計の針に追われるようにして過ごしていたら、いつのまにか土だけのままになっていたんだ。
でも、ある日、そこに緑が差した。玄関口のマリーゴールドは、タンポポやなんかに比べるとギザギザの甘い柔らかな葉、細く芯のある茎、気づいた頃にはかわいらしいつぼみをつけていて、なんだか和やかな気持ちになれたんだよ。
マリーゴールドを見ると、「ただいま」が素直に言えました。父さんが少しだけ早く帰ってこられるようになり、遠方の大学に通う姉貴はときどき玄関の掃き掃除をします。あと、これはお笑い草になりそうだけど母さんの出で立ちが少し華やかになりました。色みが増えたんだ。ほんとうだよ。
日に向かって凛と咲き誇る姿を、きみにも見せてあげたいです。けれどそれはもう叶わない。この前の台風でだめになってしまったから。家の中へ入れておけばよかったのにぼくはそれをしませんでした。ごめんなさい。ほんとうに申し訳ないと思っています。
きみがいたら、なんていうのかな。本気で怒ってくれる? 静かに涙してくれる? それとも曖昧に微笑んで慰める?
軽蔑されても嫌われてもいいからもう一度きみに会いたいよ。その一心で手紙を書きました。
一片の花びらに記された場所に宛てて、きみに届いていたら嬉しいです。夏休みに撮った家族写真とぼくの文化祭の写真と、それからマリーゴールドの花びらを同封しておきます。ちょっとキザだったかなあ。
きみがぼくのことを想ってくれる度に、ぼくもきみを想うから。伝えたいことはたくさんあるけど、今日はこれで終わりにします。
改まって書こうとしたけど、いろんな感情が募っていくばかりでうまく書けませんでした。きみは、なにをかしこまって、と笑っているのかもしれないね。今度はきっと、きみと話していたときみたいに、もっとぼくらしく書いてもいいのかな。
よかったらお便りください。そのときは、きみのところに咲いている素敵な花も一緒だとうれしいな。
また逢える日まで。メリークリスマス! 草々
十二月二十四日 ぼくの大切なひとへ
追伸 今度、自然教室に行きます。天国でもスキーはできるのかな?
花びらが示すきみの居場所
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